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ラオスの危ない綱渡り(ラオスの現状)


ラオス中国高速鉄道プロジェクト



北部ラオス、ウドムサイからルアンナムータにバスで行く途中、深緑の山肌が削られ黄土が無残に露出している光景が眼に入る。「開発とは

環境破壊である」と思い知らされる一瞬である。

高速鉄道の橋桁やトンネルの掘削工事が急ピッチで進められ、中国語の看板が林立し、大きなゲートの下を中国語表記の大型トラックが砂

埃をあげ、ひっきりなしに出入りしている。ここは中国領土の延長か、中国経済圏の拡張かと思い知らされる。

現実に北部ラオスでは中国化が進み、ウドムサイの人口の25%が中国人で街中では中国標記の看板が目につき、市場では中国製品が

売られている。

特に中国国境の街、ボーデンでは食べ物も、飲料水も言葉も中国語で、流通通貨は中国元で時間すら中国時間である。




ルアンパバーンのメコン川に架かる橋桁





ウドムサイ〜ルアンナムターの橋桁


かつて、ラオスを植民地化したフランスはインドシナ諸国を鉄道網で結ぼうと鉄道建設を目指したが、工事の困難さと莫大な工事費のため断念した。

現在、タイのノンカーイとターナレーンの間に3、5kmの鉄道が敷設されているのみである。

 ラオスは国家の近代化をアピールするために、鉄道建設には強い願望を持っている。

201010月に計画に着手、2014年に完成予定だったが、中国側で汚職事件が発覚し、工事は無期限延期となっていたが、2016年に突如、

工事が再開され、2021年に完成が予定されている。

 鉄道は中国雲南省昆明からボーデン国境を通りルアンパバーンを経由して首都ヴィエンチャンまで427、2kmを結ぶ単線である。将来的に

はタイのバンコクからマレー鉄道へ接続し、シンガポールまで追伸を計画している。北京からシンガポールまで鉄道での通行が可能になる。

ラオス中国高速鉄道プロジェクトは習近平が推し進める巨大経済圏構想「一帯一路」の南進版といえる、この鉄道建設により中国は南洋に

通じる交易路などを確保できることになるが、中国にとってはラオスとの交易など眼中になく、ラオスは素通りするだけで、

ラオスにお金が落ちる事はない。

中国の最大の目的は、ラオスのその先にある、中国製品を輸出するルートであり、中東から原油を運ぶルートである。

総工費が67億ドルで7割は中国が負担することになっている。財源のないラオスは中国から土地を担保に4億8000万ドルを借り受け、開

通後の収益から返済を計画している。開通から6年後には黒字になると算盤を弾いているが試算には根拠が乏しい。

返せなくなるほどの借金をし、借金の償還が経済成長に追い付かず返済が滞った場合、ラオスの国土が中国に奪われるのを目に見えている。

自然環境への悪影響をかえりみず、中国式に強引に工事はすすめられている。

地域住民には工事の具体的なことは知らされることなく、何の事前通知もなく工事が進められている。土地を収用される住民の声は反映され

る事はなく、市場価値よりはるかに安い補償額しか得られない。

ある村では山から湧く湧き水の水量が少なくなる現象が生じ、別の水源から水を引いて急場を凌いでいると聞く。水源の枯渇により、ラオス

の自然が、動植物の生態系が破壊されていくことが懸念される。

 ラオス政府は国家の威信や近代化のために鉄道建設を望んでいるが、莫大な借金を抱え政策の甘さから国土を奪われることにより、さらに貧しくなる。

為政者の政策の甘さは、結局の所、ラオス国民をさらに貧困に追い詰めていく。

膨大な借金を抱えての鉄道建設や開発より、ラオス国民が貧しさから抜ける有効な政策が必要だと思う。

「ラオスにいったい何があるのですか?」というタイトルで、紀行エッセーを書いた「無智」な小説家がいると聞いたが、ラオスには「宝」と言える

、みずみずしい豊かな自然があり、思いやりにあふれたラオスの人々がいると言いたい。


                                      (文・写真とも 坂本正通)